この4月から、70歳まで働けるようにすることが企業の努力義務となり、将来は義務化される可能性もあるとのことですが、そうなると年金の支給開始も70歳になるのでしょうか。
年金の支給開始年齢が70歳に引き上げられる予定はありません。現在、老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳への引上げが行われている最中で、当面はさらなる引上げは行われないでしょう。ただし、「繰下げ」により70歳受給開始を選択することは可能です。
年金支給は65歳から
公的年金の支給開始年齢は現在、原則として65歳です。この支給開始年齢が引き上げられる予定はありませんし、引上げに向けての具体的な議論もありません。もちろん、将来のことはわかりませんが、いまのところ65歳支給開始は変わらないと考えていいでしょう。
というのは、支給開始年齢は「原則として65歳」と書きましたが、現在は、65歳への引上げの途中にあるからです。老齢厚生年金はかつては60歳から支給されていました。それを65歳支給開始に変更することとされたのですが、一気に65歳支給開始にするといろいろと影響が大きいため、段階的に年月をかけて少しずつ(1歳ずつ)引き上げることになっています(なお、老齢基礎年金はもともと65歳支給開始です)。
そのため、生年月日によって支給開始年齢が異なり、いまも65歳前から年金が受給できます。たとえば、昨年60歳になった1960年生まれの男性は64歳から受給できます。65歳支給開始となるのは男性の場合、1961年4月2日以降生まれの人です。女性は、1966年4月2日以降に生まれた人が65歳支給開始となり、それより前に生まれた人は65歳前から受給できます。
すなわち、支給開始年齢の65歳への引上げがまだ済んでいません。完全に65歳支給開始になるまではまだ少し時間がかかります。それまではさらに支給開始年齢を引き上げる議論は具体化しにくいのではないでしょうか。
「繰下げ」で70歳受給開始も
というわけで当面65歳支給開始は変わらないと考えられますが、年金には「繰下げ」という制度があり、これを利用すれば70歳から受給することができます。すなわち、原則65歳支給開始の年金を希望により66歳以降の支給開始に変更することができます。現在は最大で70歳まで支給開始年齢を繰り下げることができますが、2022年4月からは75歳までの繰下げが可能になります。
支給開始年齢を繰り下げると、年金額は増えます。増加率は、繰り下げた月数ひと月につき0.7%です。ずいぶん小さい数字と思うかもしれませんが、受給開始を1年遅くすれば8.4%(=0.7%×12月)年金額が増えます。5年繰下げて70歳から受給すれば、42%(=0.7%×60月)の増加です。さらに、2022年4月1日以降は75歳までの繰下げが可能になりますから、10年繰下げで84%の増加です。
かりに、65歳に受給を開始した場合の年金額が月額20万円とすれば、70歳まで待てば月額28・4万円に、75歳まで待てば36・8万円に増えます。もちろん、65歳以降受給を待機していた間は支給されませんから、何年間受給できるか(何歳まで生きるか)によって、累計の受給額が多くなるとは限りません。そうではあっても、公的年金は長生きというリスクに備えた保険である、と考えれば、繰下げ受給は有力な選択肢といえます。
Profile
武田祐介
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。