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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2021年5月号掲載

「70歳リタイア」時代と社会保険(後編)

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先月号の話では、近い将来、70歳まで働くのが当たり前になっても、年金の65歳支給開始は変わらないとのことですが、年金以外の社会保険はどうなっていますか。たとえば、70歳でリタイアした場合、雇用保険の失業手当は受給できますか。

年金と同様、社会保険の給付の面では、「70歳リタイア」に対応していない点が少なからずあります。雇用保険では、基本手当(一般に失業手当と呼ばれているものです)の対象は65歳未満で離職した場合で、65歳以上の場合は基本手当は受給できず、最高50日分の一時金の支給対象になります。

70歳以上は自己負担割合2割

以下、各社会保険について、その給付に年齢による差異があるかどうかをみていきましょう。

(1)健康保険
健康保険の給付は基本的に年齢による違いはありません。ただし、診療などを受けたときの一部負担金(自己負担)の割合が70歳を境に異なります。すなわち、70歳未満の被保険者は3割負担ですが、70歳以上は原則2割で現役並みに所得がある人に限って3割とされています。この点で、すでに「70歳リタイア」に対応しているといえます。

(2)介護保険
介護保険の自己負担割合は65歳を境に異なっています。原則として、年齢を問わず1割負担ですが、65歳以上(第1号被保険者)に限り、一定以上の所得がある場合は、その所得に応じて2割または3割になっています。健康保険とは異なり、高齢者のほうが負担が高くなっています。

(3)雇用保険
失業した場合、65歳未満であれば基本手当の支給対象となります。基本手当は年齢や離職理由に応じて基本手当日額の90~330日分が支給されます。たとえば60歳で定年退職した場合は150日分です(勤続20年以上の場合)。65歳以上の人(高年齢被保険者)には基本手当は支給されず、基本手当日額の30日分または50日分の高年齢求職者給付金が一時金として支給されるにとどまります。
また、60歳以降、給与が下がった場合に支給される高年齢雇用継続給付の支給も65歳到達月までとされています。
一方で、教育訓練給付や育児休業給付、介護休業給付は65歳以上も支給対象となっています。

(4)労働者災害補償保険(労災保険)
労災保険の給付は、年齢による違いはありません。

「65歳リタイア」が前提の雇用保険

このようにみてくると、前回説明した公的年金も含め、社会保険の給付は、65歳を境に取扱いが異なっている点が少なくありません。とくに雇用保険は65歳までにリタイアすることを前提に考えられているといっていいでしょう。

ただ、これらも今後変わっていくことが考えられます。たとえば、高年齢雇用継続給付は、「60歳リタイア」から「65歳リタイア」への移行を進めるために導入されたものですが、すでに「65歳リタイア」が一般的になり、その役割を終えたことから、2025年4月に給付が縮小されることが決まっていて、最終的には廃止される見通しです。代わって「70歳リタイア」を促進させるための給付が創出されるかもしれません。

いずれにしても、何歳まで働くかを考えるにあたり、社会保険の給付に着目することは大切です。

Profile

武田祐介

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。

公式HP https://www.officetakeda.jp/

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