公益社団法人生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会 Japan Association of Insurance and Financial Advisors

Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2021年2月号掲載

運転席からの眺め

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全日本中学校長会賞

愛知県 刈谷市立朝日中学校
三学年 重野 颯吾(しげの そうご)

部活でへとへとになりながら家路を急ぐ。

「ただいま!疲れた〜。今日のご飯何?」

「お疲れさま!とにかくお風呂にすぐ入って。その足で動き回らないでね!」

ずっと変わらないこの母親とのやりとり。なぜだか分からないがホッとする。

去年の暮れ、いつものように部活で疲れ切って帰宅した。

「ただいま!疲れた〜。今日のご飯何?」

「……」

『あれっ?』

「ただいま。」

人気は感じるのに、いつもと違う雰囲気に何か不安を感じた。お風呂から上がると、凄く優しかった大叔父のたかやんオジサンが急性心筋梗塞で急逝したことを知らされた。人の死に対してなかなか真正面から向き合えない自分がいることに気づいた。そしてそれと同じくらい、人の死の向こうには残された家族がいるということをリアルに感じた。この歳になり、初めて大きな不安に直面したような気になった。

数週間が過ぎた後、たかやんの娘であるサキ姉さんが留学するために渡米するという話を聞いた。また自分の心がザワザワした。残された家族は今、どんな生活を送っているのだろうか?

ある日、父がリビングのソファに座りパソコンで作業をしていた。二人だけだったので、勇気を振り絞って聞いてみることにした。

「ねえ、サキ姉さん、またアメリカへ行くんでしょ?よく決めたよね。」

「そうだな。たかやんもきっと、行くことを喜んでくれると思うけどな。」

「そうだね。でもさぁ。お金とか大丈夫なのかな?まあ俺が心配することじゃないけどさ。」

少し冗談っぽく聞いてみたが、実は一番聞きたかったことだ。

「確かに心配するよな。でも、たかやんは生命保険に加入していて、万が一の時にも、すべて今まで通りに生活できるように準備していたみたい。だから、サキちゃんもお金の心配は全くなく決断したみたいだね。」

「へ〜。そうなんだ……。」

ついでに自分の家のことを聞こうとしたが、なかなか言葉が出てこなかった。僕の気持ちを察したのか、ゆっくりと父が話し始めた。

「俺がおじいちゃんの車の後部座席に乗っている時を思い出すことがあるんだ。すごく居心地が良いんだ。すぐに眠れるしな。どこに行くんだろう?って、わくわく感しかない。起きたら絶対に美味しいお店か、釣りか、まあ楽しいことしかないんだよ。それがいつしか、自分が運転する日が来るんだよ。まだ一人で運転している時は楽しくて仕方ない。けど、いつしか家族が増えて、今度は自分が後部座席に子供を乗せて運転する番になっているんだ。運転席の眺めは後部座席とは全然違う。どこに行こう?迷子にならないようにしないと。事故に遭わないようにしないと。子供は絶対に守らないと。色々なことを考え始めてるんだ。まあこれが責任なんだと思う。でも、いつもそんなことを考えていると楽しめなくなってしまう。だから、リスクを先に考えるんだよ。今回、たかやんは万が一の時のリスクを考えて生命保険という準備をしていたと思う。万が一の時、残された家族が路頭に迷わないように最大限の準備をしていたんだなぁとお父さんも実感している。もちろん、お父さんもリスクの計算はしている。今はまだお前は後部座席に乗っている時だ。何も心配することはない。今を楽しみなさい!俺の準備はしっかりしているから。分かるだろ?」

おどけたように最後は言葉を濁したが、父からの真剣で想いのこもったメッセージだと思った。

その日の夜、家族でご飯を食べに行った。いつもは助手席に乗るがあえて後部座席に座ってみた。後部座席の眺めは格別に良かった。

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